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センターラインオーバーのもらい事故でも過失はある?

「100対0」

交通事故で過失割合の話をするときによく出てくるワードで、被害者側に一切の過失がないことをいいます。

典型例としては、停車している車が後ろから追突された事例や、青信号を横断中の歩行者が、車に轢かれてしまう事例などです。

その典型例の一つにセンターラインオーバーの事例もあげられます。対向車がセンターラインをオーバーして、対向車と正面衝突してしまうといった場合です。

注目の判決

平成27年4月13日、福井地方裁判所において、交通事故事件についての判決が注目を集めています。

センターラインオーバーの正面衝突事故で、そのセンターラインをオーバーした車両の同乗者から損害賠償請求をされ、それが認められたというものです。

事案の概要

以下、事案を簡単に説明します(理解のために事案を簡素化しています)。

Aさんは、友人のBさんと行ったコンサートの帰り道、自分の車を運転していましたが、眠気を感じ、Bさんに途中で運転を変わってもらいました。

その後、Bさんは疲れからか仮睡状態に陥り、センターラインをオーバーしてしまい、対向車線を走行していたCさんが運転する車と正面衝突してしまいます。

この事故で、Aさんは亡くなられ、Bさん、Cさんも怪我を負いました。

なぜ対向車の運転手を訴えたのか

センターラインオーバーの事故であるため、通常、Aさん遺族は、Cさんに対して損害賠償請求をしても、いわゆる「100対0」であるから、認められる可能性が低いです。

まず、Aさん遺族は運転手であるBさんに対し、損害賠償請求を検討することになりますが、報道等によるとAさんの車の任意保険での対人賠償責任保険では、Aさん本人がそれを使うことはできません。

さらに、運転手の任意保険が使えないかを検討することになりますが、これは「他車運転危険担保特約」がついていなかったため、自分の車に乗っていないBさん(家族)の保険も使えません

そのため、損害賠償請求をしても、保険が使えないので、Bさんが資産を持っていないと実際には支払われないということになります。

しかし、Bさんは学生で賠償資力は無かったようです(原告側代理人宮本健治弁護士Facebookページ)。

そこで、Aさん遺族は、対向車線を走行していた車の運転手であるCさんに対し損害賠償請求をすることになりました。(その他、宮本弁護士によると、人身傷害補償保険、無保険車傷害保険等当事者のさまざま保険の適用を検討したようですが、本件被告の自賠責保険しか適用ができなかったようです。)

過失があるかないか分からないときには?

損害賠償請求事件は相手に過失があることが要件となります。

そして、通常の損害賠償請求事件においては、相手方の過失は、損害賠償請求する側(今回でいうAさん遺族)が証明しなければなりません。

そしてその場合、裁判所が、「相手方に過失があったかなかったか分からない」ということになれば、相手方に過失はなかった、被害者からの損害賠償請求は認められないという結論になります。

しかし、交通事故における人身損害についての損害賠償請求事件においては、自動車損害賠償責任法という法律があり、損害賠償請求をされた相手方が、「自分に過失がなかったこと」を証明しなければならないとなっています。

この場合、裁判所が「相手方に過失があったかなかったか分からない」ということになれば、相手方に過失はあった被害者からの損害賠償請求は認められるという判断になります。

福井地裁の事例では

今回の福井地裁の判断は、Cさんから見て実際よりも早い段階でBさんの運転する車の動向を発見していれば、その時点で急制動の措置を講じて衝突する前に停車させたり、衝突による衝撃を減じたり、クラクションを鳴らすことにより衝突を回避するなどできた可能性も否定できないことからすれば、Cさんに過失がなかったとはいえないと判断しています。

そして、その結果、Aさん遺族のCさんに対する損害賠償請求権が認められ、語弊を恐れず言えば、結果的にセンターラインオーバーのもらい事故でも、損害賠償責任を負う結果となっています。(Aさんも3割の過失があったとして、過失相殺が認められています。)

おわりに

センターラインオーバーにおいても、必ず100対0になるわけではなく、具体的な運行態様により、過失は決せられることになります。

現に、裁判所は実況見分調書上の位置関係が必ずしも正確な位置を示しているとはいえない点や、衝突直前にCさんが路側帯の歩行者に視線を移している点、Cさんの車を先行して走っていた車が、Bさんの運転する車を避けたことなどの主張があることなどからすれば、軽々に福井地裁の判断が誤りであったということはできないでしょう。

今回の事例をセンターラインオーバーのような防ぎようのないもらい事故でも過失が認められてしまった裁判例というように理解するのは誤りです。

そもそも「もらい事故」という言葉も評価を含むもので、センターラインオーバーの事故が過失割合100対0である「もらい事故」であることを前提に話をするのも間違いでしょう。(この裁判例が全く持って正しいと言っているわけではありません。過失相殺の判断等疑問の残る点もあります。)

上記のとおり、過失及び無過失を立証する責任がどちらにあるかという点で、判断が分かれた興味深い裁判例でした。

過失割合は、形式的な認定基準にあてはめず、個別具体的に検討し、一見難しい場合においても請求できる余地を探るべき場面もあります。

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