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【事務所コラム】高次脳機能障害の講演に参加しました
高次脳機能障害の講演に参加しました
先日、福岡県弁護士会交通事故委員会主催の高次脳機能障害の講演に参加して来ました。
講演テーマは、(一緒に参加した弁護士が全く分からなかったと言うほどマニアックなものですが、)「高次脳機能障害『脳外傷による高次脳機能障害相談マニュアル』の解説」です。
高次脳機能障害の概要について
高次脳機能障害の典型的な症状としては認知症をイメージしてもらえば分かりやすいと思いますが、脳外傷による人格変化(暴力性、幼稚性、易怒性、固執性、情緒不安定等)なども含まれます。
2000年(平成12年)以前は、実際に集団行動や社会生活が困難となっているにも関わらず、脳損傷の明確な画像所見が見受けられないケース、社会に出るまで症状が顕在化しないケース等で、ほとんど後遺障害として認定されないという問題がありました。
「見えない障害」、「隠れた障害」などと言われてきた高次脳機能障害の「見落とし」を無くすため、損保料率機構の設置した「高次脳機能障害認定システム確立検討委員会」が審査手続や認定基準を構築し、2001年1月から、専門医による審査専門部会での審査・認定が開始されました。
その後の「高次脳機能障害認定システム検討委員会」の報告によると、認定件数は、下表※のとおりとなっているようです。
2001年以降の高次脳機能障害認定件数
合計 | 1級 | 2級 | 3級 | 5級 | 7級 | 9級 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2001年 | 2,529件 | 630件 | 307件 | 338件 | 336件 | 453件 | 465件 |
2002年 | 3,060件 | 589件 | 379件 | 425件 | 400件 | 590件 | 677件 |
2003年 | 3,015件 | 507件 | 372件 | 348件 | 410件 | 605件 | 773件 |
2004年 | 2,865件 | 460件 | 359件 | 315件 | 376件 | 587件 | 769件 |
2005年 | 2,754件 | 503件 | 372件 | 330件 | 353件 | 491件 | 705件 |
2006年 | 2,967件 | 667件 | 373件 | 330件 | 353件 | 491件 | 705件 |
2007年 | 3049件 | 682件 | 397件 | 370件 | 417件 | 568件 | 615件 |
2008年 | 3,059件 | 686件 | 412件 | 359件 | 407件 | 577件 | 618件 |
2009年 | 3,313件 | 739件 | 437件 | 401件 | 426件 | 614件 | 696件 |
講演のテーマについて
冒頭で言ったとおり、今回の講演テーマは「高次脳機能障害『脳外傷による高次脳機能障害相談マニュアル』の解説」です。
「脳外傷による高次脳機能障害相談マニュアル」というのは、日弁連交通事故相談センター本部が毎年発行している「交通事故損害額算定基準」(いわゆる「青い本」)の中の付録記事のひとつです。
記事の中には、毎回、「高次脳機能障害認定システム検討委員会」に在籍する専門医やソーシャルワーカー等の特集記事もあり、私も案件処理にあたって大変参考にさせていただいているので、今回の講演テーマは非常に興味深いものでした。
講演内容について
講演では、「脳外傷による高次脳機能障害相談マニュアル」に関して、脳の構造から、相談時の留意点、後遺障害等級認定上のポイント等について、具体的事件にも触れながら、スライドを使って解説がなされました。全てをここに書くことはできないので、上記「見落とし」の問題点に限った感想を書きたいと思います。
高次脳機能障害の代表的な症状は(整理の仕方は色々ありますが)、①認知障害、②行動障害、③人格変化です。講演では、病院で症状が見えなくても(現れなくても)、現実に社会で適合困難となっているケースは多いというお話がありました。
私も同じように考えます。社会では仕事をこなすことが求められますが、病院では求められません。病院では、社会生活と異なり、医師や看護師も患者にストレスをかけるようなことはしないので、社会的行動障害は潜伏したまま顕在化しにくい環境にあります。
IQテストのような検査で高得点を獲っても、脳外傷に基づく情緒不安定や持久力欠如等によって、労働が困難となっていることもありますから、客観的な検査が全てとも言えません。また、人格変化があっても、「人が変わった」と感じることができるのは、医師ではなく、事故以前の被害者の姿を知っている人だけです。
そこで、後遺障害の認定にあたっては日常生活状況報告書が重要な資料となり、申請の際には家族等から被害者の症状にまつわる具体的なエピソードを掘り起こす必要があるというお話がありました。
人により高次脳機能障害の症状は様々で、とりわけ年少期や高齢期の被害者だと、「成長が少し遅れているだけ」「老人性認知症による症状が出始めた」と勘違いしてご家族でも気づかないこともあるので、時には、ご家族だけでなく、職場・学校関係者などから話を聞くことも必要です。
一方で、日常生活状況報告書は、ただただ、エピソードを漫然と書けば良いというものではなく、例えば労災認定基準の4要件(①意思疎通能力、②問題解決能力、③作業負荷に対する持続力・持久力、④社会行動能力)に沿って認定に必要なポイントを書く必要があり、私も作成に苦慮することがありました。
後遺障害認定は書面のみの審査であり、高次脳機能障害については、どれだけ家族等が気付いて積極的・説得的資料を揃えることができるかにかかっているという制度上の側面も、障害の「見落とし」の要因のひとつとなっています。
現在においても、高次脳機能障害は、まだまだ「隠れた障害」であるなと考えさせられました。
高次脳機能障害について詳しいことは下の画像からご覧ください。